Darieの超~お気楽日記

音楽家Darie(濵田理恵)が日々のことを綴る、超~お気楽日記。

涙ねぇ。

三月歌舞伎は「義経千本桜」の昼夜通し。
途中、お食事を1回、甘味を3回ほど差し挟みながら、しっかり拝見してきた。
安徳天皇の乳人役に、四代目坂田藤十郎丈。
戦に負けて幼い天皇とともに入水しようとするくだりで、藤十郎丈の目に涙。
前から2列目の席だったので、はらはらと大粒の涙が舞台上にしたたり落ちるのが、つぶさに見える。
涙、涙、涙。
大変な熱演に心奪われたが、同時に藤十郎丈の涙によって遥か昔のとあるテレビドラマが思い起こされてしまい、私の狭量な脳ミソ内では目の前のお芝居とテレビドラマが見事にシャッフルされてゴチャマゼに反芻されるという奇妙な観劇体験となった。


「夏に恋する女たち」。
このドラマが放映されていた時分、私はまだ大学生で、テレビっ子で、就職の「し」の字も眼中になく、将来のことなど微塵も考えず、3つの大学のサークルに籍をおき、バンド活動に明け暮れて、まだヒヨッ子のくせにいっぱしの成人気取りで、ボーイフレンドとは喧嘩と仲直りを繰り返し、、、てな具合の極めて一般的かつ健全お気楽な日々を過ごしていたのだった。
そんなお気楽な時代に、毎週見ていたドラマ。
涙がテーマとなった回があって、ホスト役の原田芳雄が商売の道具としての涙を流したり、カメラマン役の田村正和が撮影中モデルに目薬をさして嘘涙を流させたり、いろんな涙が登場してた。
「涙」ときて連想するものは他にも数々あれど、なぜかその放送回をパーンと思いだしてしまったのだ。


そして、今、目の前の歌舞伎役者が流す、大粒の涙。お化粧が流れて頬に淡い朱色の筋を作っている。
涙、涙、男の涙、鏡にうつる自分の涙、涙、涙、、、、あらゆる涙の記憶が押し寄せて、かつて何度も観た「義経千本桜」の中でも格別に味わい深いものになった。
そもそも、そのドラマのことなんて、すっかり記憶の外に放り出されていたも同然なのだ。それなのに、たったひと粒ふた粒、赤の他人が流す涙でざざざーっと波が寄せるように記憶が蘇ってしまうなんて、涙とはまっことおそろしいアイテムざます。
涙ねぇ、涙。。