法定速度で走ることもままならないほどのドシャ降りの雨の中、ワイパーを最速にしてハンドルを握り、大阪の実家から東京に戻ってきた。
京都を過ぎ、名古屋にさしかかったあたりで、昨年のある日、それはよく晴れた満月の夜であったが、昨夜とは逆に西に向かう道中、大きな川を幾つも越えるたびになんともいえないやさしい気持ちになったことを思い出した。
その晩はおのずとアクセルを踏む右足がゆるんで、フロントガラスの左上にいただいた丸い月を見上げては、ゆっくりと愁眉が開いていくのを感じたものだが、昨夜のような大雨の中の運転はとても神経をつかうもので、そんな緊張状態が何時間も続けば、自分でもわからないうちに感覚が麻痺していく。
鼓膜を振動させつづける激しい雨の音や通奏低音のようなエンジン音に7時間以上もの間さらされていると、両耳ごと、いっそ首から上をごっそり取りかえたくなるほど音の垢が自分にこびりついている気がして、東京に着いてからもしばらくは耳の感覚がおかしかった。
美味しい美味しいトンカツとあたたかい日本酒をいただいて、やっと本来の身体の感覚が自分の中に戻ってきた。
ああ、美味しいトンカツはすばらちい！
世の中いろいろあるけれど、美味しいトンカツを揚げる職人さんたちがこの世にいる限りは、とにかくなんとかなるでしょう、という気持ちにさせられる。
きっと私はこれまで何度も、美味しいトンカツに救われてきているはずなのだ。
そして、美味しい音楽も同じく、人々の心を今より少しでもハッピーに、今より少しでも見晴らしよく、風通しよくするお手伝いが出来ればいいなあと思うわけであります。
「ステキな たまご！」、作詞、いたしました。
『いないいないばあっ！』NHK教育にて放送中〜。
