我が家にも存在する、世代の壁、性別の壁、格差の壁。
そのすべてを無邪気な足取りで軽々と飛び越え、忍者屋敷のような家の中を縦横無尽に歩き回る、バク。ゴールデンレトリーバー8歳♂。
人間の年齢に換算するともういいオッサンになっているはずの彼が、一日に一度は必ず夢中になって戯れ遊ぶ、とあるオモチャがある。
ボコボコとたくさんの突起がついていて、へこませるとキュッキュッと音がする、ハンドボールより少し小さめのゴムボール。まだ彼が幼犬だった頃、私が買って帰ったその日からこのゴムボールは彼にとって一生モノのオモチャとなった。
意味なくくわえてウロウロしてみたり、ボール投げごっこを私達にせがんできたり、お昼寝のときには鼻先に触れるほどの場所に大切に置いている。
表面が破けてボロボロになった野球の硬球や、散歩のときにどこからか得意気にくわえて来た黄色いテニスボールなど、彼が所有しているオモチャは他にもたくさんあるけれど、このボコボコボールへの執着は8年もの間、まったく変わることがない。
このボールのいったい何がバクの心をつかんで放さないのか、私にはよくよく謎だけれど、これまでもこれからも、バクとの生活を映し出すフレームのどこかに、このボールは転がっているのでしょうにゃ。
トロンと鼻を突く甘い匂いが健康にちーとばかり悪そうな、魔性のボール。
