友人を車で送った帰り道。
今まで一度も走ったことのないエリアに出た。
私の家まで直線距離にすれば10キロ程度、それほど離れてはいない。なのに、こんな場所があるのか、と茫然とするほど馴染みのない景色。
広々と整備された車道、しかし街灯はとても少ない。生命の気配があまりしない。
なんなんだ、ここは。
午前零時、前にも後ろにも車は一台も見当たらない。
ゆるゆると走りながらナビを確認すると、私はどうやら自衛隊駐屯地に沿って運転しているらしい。
にゃるほど。とても人工的かつ現実感の希薄な長い塀やむっつり押し黙った黒い森は、そういうことだったのか。
ということは、その向こう側には以前よく遊びにいった国営公園がある。
夏の終わり、公園の丘の上に座っていると、この駐屯地から飛び立っていくヘリコプターが見えた。
ド派手なホバリングの轟音に、コスモスの群れがたなびいていた。
ときおり鳴り響くサイレンに、ヒマワリの集団が物憂げに顔を寄せ合っていた。
この公園の植物たちはその手のことには慣れっこで、人間にも機械にも規則にもナショナリズムにも寛容なのだった。
そんなことを思い出しているうちに、フロントガラスの外に広がる景色は、徐々に見覚えのあるものになっていく。
信号を一つ曲がるごとに、現実の世界へ一つ近づく。
幾つもの角を曲がって曲がって、ようやく家の前にたどり着いたとき、やっと私は現実のヒトになっていた。
知らない道を走るのも、たまにはいいな。
