仕事で、とある録音スタジオに行った。
何度も何度も来ている場所だが、今日、1階の入り口を通り抜けた途端、最初にこのスタジオに来たときの記憶が蘇った。
そのとき、かれこれ20年以上も前のことだが、私はこの場所で、人と会う約束をしていたのだった。
先方から指定された場所が、このスタジオのロビーだったのだ。
相当昔のことなのに、そのとき着ていた服や、頬で感じる自分の髪の質感や、持っていたバッグの「くた」っとした手触りなど、克明に思い出した。
なぜこんなことを、今、思い出すのだろう、と奇妙な気分に包まれながら、この日のオチゴトは、ワケあって5年前に作ったCMの自分の歌の録り直し。
歌い直した声は、5年前とほぼ変わらない、という事実に、ちょっとがっかりする。
どこにも成長のあとが見られない、ということもあるし、もっと何かが変わっていてもいいはずだ、という「時間」に対する幻想のようなものがあるのかもしれない。
そう、でも、意外と何も変わらないのだった。
そのことに、がっかりするような、安心するような、つまらないような、納得するような。