室内ゆえ、そして携帯電話に付帯しているカメラゆえ、はげしくブレてはいるが、これはバランスボールで玉乗りの曲芸に興じる小型犬の写真である。
名前はビビ。
弟が飼っているミニチュアピンシャー。2歳になる女の子。
弟はビビに曲芸をやらせて小遣いを稼いでいるわけでも、奇抜な転職を考えているわけでもない。
楽しく遊ばせていたら、ビビはいつのまにか玉乗りをマスターしてしまったという。
私や妹が一緒になって「すごいすごい！ ビビ、サイコー！！」などと盛大に囃したてるものだから、よほど気をよくしたのだろうか。
おやつなどで釣らずとも、気分が乗れば勝手に玉乗りを始めてしまう。
ただただ、「すごい！」「すばらしい！」「かわいい！」「信じられない！」「サイコー！」と賛辞の嵐を浴びたいがために、小さな小さな身体で懸命にバランスボールを操らんとする姿の、なんといじらしいことよっっっっっ！
前の日にどれほどクソ面白くないことがあろうとも、ビビの勇姿を一目見ればそんなつまらないものは一瞬でどこかへ消し飛んでいってしまう。
私達家族がビビにとってうかがい知れない話題に花を咲かせていると、おもむろに部屋の隅に転がっているバランスボールに飛び乗って、よよよよよよ〜〜っと座の中心へ向かってゆっくりゆっくり転がり出てくるのだ。
巧みに方向をコントロールし、カーペットの段差をものともせず、障害物を避けながら、絶妙なタイミングで登場し、一気に私達の全注目をかっさらう。
実にあっぱれなミニチュアピンシャーなのである。
そして、そんなあっぱれな彼女も、ゴハンのときは多くの飼い犬がそうであるように、ごちそうを前にして「待て」を強要される。
さんざん「待て」をさせられたそのあとで、「吉田拓郎。吉幾三。吉本新喜劇。」と地獄の「ヨシ」ひっかけ3連ちゃんをかいくぐったのち本当の「ヨシ！」、つまりお許しをもらって、ようやくめでたくゴハンとなるのだ。
なぜ最初が吉田拓郎なのか、理由がまったくわからないが、弟とビビの間では食事のたびにこのオバカなひっかけ3連ちゃんを通過しなくてはならない決まりがあるようなのだった。
吉本ばなな、とか、吉田元首相、とかでもいいだろうと思うけれど、私ごときが口出しをすることではないから黙っていた。
とにかく弟のしつけは飴と鞭の使い分けがかなり独特で、こんなオバカなしつけで本当に大丈夫なのか！？と心配になる場面がいくつかあったのだ。
地獄の「ヨシ」ひっかけ3連ちゃんは、そのうちのひとつ。
でも、ねじれず、いじけず、スクスクと愛されるよい女の子に育っているのだから、いいのですね。
